環境影響部門

研究内容

1. 骨格形成の制御機構と成長障害発症機序の解明

1.1 骨格の形成・維持の制御機構の解析

内軟骨性骨形成に関わる分子類胎児期から小児期にかけて身体は急速な発育を遂げますが、その中心的役割を担うのは骨格の形成及び成長です。哺乳類においては、骨格は膜性及び内軟骨性骨形成過程により形成されます。
成長を規定する内軟骨性骨形成過程においては、未分化な間葉系細胞が凝集し、増殖軟骨細胞、さらに肥大化軟骨細胞への分化を経て石灰化に至り、血管侵入を契機に骨に置換されます。軟骨細胞の増殖や分化の障害は、骨格の形成や成長の異常をもたらします。また、骨では常に骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が起こっており、骨形成と骨吸収の不均衡は骨量の異常を引き起こします。
高齢化社会において大きな問題となっている骨粗鬆症は若年時の最大骨量(peak bone mass)を増加させることで予防可能です。近年、骨格の形成や維持に関わる多くの分子が同定され、このプロセスには多様なシグナルが関与することが明らかになってきておりますが、これらのシグナルの相互作用やその時間的、空間的制御については不明な点が多く残されています。成長障害は病的小児に共通して認められる問題であり、遺伝的要因に加え、疾病特異的な要因や、不適切な栄養摂取、胎児の母体環境等のさまざまな環境要因が原因となります。近年の周産期医療の進歩により、早産児や極小低出生体重児の救命率は格段に改善しましたが、未熟児代謝性骨疾患やSGA(Small for Gestational Age)性低身長は今後増加することが推察されます。こうした背景から、本課題においては、骨格の形成や維持の制御機構について解析し、成長障害の発症機序について遺伝的要因、環境的要因の両者から多面的に検討を行うことにより、小児の健全な骨発育に貢献することを目的としています。これまで、ジーントラップによる変異作製などにより、内軟骨性骨形成に関わる複数の分子を同定し、その解析を行ってきました。また、出生後の骨量制御におけるWnt シグナルの作用について解析を行い、Wnt に対する共役受容体であるLrp6 が骨吸収を制御することにより骨量規定因子として働くことや、骨粗鬆症に対する新薬として注目されるPTH の骨形成作用にWnt シグナルとの相互作用が関与することを明らかにしました。さらに、リン酸利尿因子FGF23 が軟骨成長抑制作用を有し、遺伝性低リン血症性くる病の成長障害発症に関わることを報告しました。

1.2 骨系統疾患分子病態の解析と新たな治療戦略の開発

骨格の石灰化過程とアルカリフォスファターゼ骨系統疾患とは先天性にあるいは発育過程で骨や軟骨に顕著な病変や形態異常を呈する疾患群の総称であり、多くの疾患群が含まれますが、個々の疾患単位としては稀なものも存在します。従来、骨系統疾患は「根本的な治療法のない病気」の代表格 であり、対症的な内科的、外科的治療がなされてきました。また、重症例はしばしば呼吸器などの全身的な合併症を伴い、生命予後が不良です。しかしながら、近年の分子遺伝学の進歩により、多くの骨系統疾患で責任遺伝子や分子病態が明らかになり、より病態に即した治療が可能になりつつあります。また、骨系統疾患の病態への関与が明らかとなった分子やシグナル伝達経路は、リウマチや骨粗鬆症など、より頻度の高い骨軟骨疾患の治療標的としても期待されます。本課題においては、診断法の確立や新規治療法の開発にむけて、低フォスファターゼ症や大理石骨病をはじめ、種々の骨系統疾患の分子病態の解析を行っています。

2. リンの感知と代謝調節分子基盤の解析

リン代謝における骨細胞と腎臓との機能的関連リンは生命維持に必須の元素であり、生体にはその恒常性を保つための調節機構が存在します。慢性腎臓病(CKD)などにおけるリンの蓄積は心血管イベントや死亡のリスクを増加させることになります。一方、胎児期から小児期にかけては骨及び軟部 組織に多量のリンが付加される必要があり、リン恒常性の破綻は成長障害を来すことから、母子医療においてもリン代謝の理解は重要な課題です。


リン恒常性維持において中心的な役割を担うFGF23は骨で産生され、腎臓等の遠隔臓器で作用するところから、ホルモンとして位置づけられます。腎臓では、FGF23はナトリウム/リン酸共輸送担体の発現を抑制することによりリン酸排泄を増加させ、また、ビタミンDの活性化を抑制します。FGF23の主たる産生細胞である骨細胞は、骨芽細胞が最終分化に至り、骨基質に埋め込まれた細胞で、その機能についてはこれまであまり解析がなされていませんでしたが、近年、FGF23をはじめ、X連鎖性遺伝性低リン血症性くる病(XLH) の責任分子であるPHEXや、常染色体劣性遺伝性低リン血症性くる病 (ARHR) の責任分子であるDMP1が骨細胞に比較的特異的に発現していることが明らかとなり、リン代謝における骨細胞の機能が注目されるようになってきました。しかしながら、これらの分子の発現調節やリン代謝調節における機能は明確ではありません。また、リン恒常性を維持するためには体内のリンの過不足を感知し、リン代謝関連分子の発現制御にフィードバックするシステムが必要であると推察されますが、その機序については殆ど解析されておりません。こうした背景から、本課題においては、リンの過不足の感知から骨細胞におけるリン代謝調節因子群の産生及び機能の制御に至る分子機序を明らかにすることをめざしています。