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分子遺伝病研究部門

小児希少疾患関連遺伝子の解析

大阪母子医療センターには先天性疾患・遺伝性疾患の患者が多く受診しています。各診療科に関わる希少難治性疾患や発達障害(自閉症スペクトラム障害、知的障害、てんかんなど)の方も多いです。こうした疾患の原因が分子レベルで徐々に解明されています。未だに原因不明の疾患の方が多いのが現状です。こうした原因が未解明の疾患について、様々な技術を応用して病態を解明します。病院部門と連携をはかり、診療と直結した研究成果を上げています。一方、全国各地の専門研究機関と共同研究を行っています。
日本医療研究開発機構(AMED)では、「原因不明遺伝子関連疾患の全国横断的症例収集・バンキングと網羅的解析」、IRUD:Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases研究を実施しており、大阪母子医療センターも2015年の研究開始当初から参画しています。本研究において新規症候群を同定できた例もあります。希少疾患を通じて、新規の生命科学的知見を得ることが可能になる場合があります。

IRUD http://irud.umin.jp/

現在注目している疾患はCDC42遺伝子異常による「武内―小崎症候群(TKS)」です。
慶應義塾大学と共同で日本において疾患概念を確立することができた疾患です。研究の成果を受けて、2019年に小児慢性特定疾患に指定されました。日本医療研究開発機構の研究班もでき、治療薬開発にむけた研究がすすんでいます。患者では知的障害、成長障害、巨大血小板性血小板減少症、免疫不全、関節異常、難聴、リンパ浮腫などさまざまな症状がみられます。我々は血小板減少症に着目し血小板の産生モデル細胞であるMEG-01細胞を用いた解析を進めてきました。その過程でTKS変異型CDC42は細胞膜への移行が亢進している高活性型である事と、MEGー01細胞でもその成熟過程で障害が生じた結果血小板が肥大化し、産生される血小板数も減少している事を確認しました。

そこでCDC42の活性を抑制すれば減少した血小板の産生量を回復させることが出来るのではないかと考えCDC42阻害剤(ML141,Rーketrolac)や脂質修飾阻害剤(GGTIー293)を添加したところ、いずれの薬剤でも減少した血小板の産生量を効果的に回復させることが可能である事を見いだしました(図1)。またTKSではB細胞の分化障害やT細胞の成熟異常がみられるので現在はB細胞およびT細胞の成熟過程に及ぼす影響について解析を進めています。

1.Takenouchi, T., Okamoto, N., Ida, S., Uehara, T. & Kosaki, K. Further evidence of a mutation in CDC42 as a cause of a recognizable syndromic form of thrombocytopenia. Am. J. Med. Genet. A 170A, 852–855
2. Hamada, N., Ito, H., Shibukawa, Y., Morishita, R., Iwamoto, I., Okamoto, N., and Nagata, K.I. (2020). Neuropathophysiological significance of the c.1449T>C/p.(Tyr64Cys) mutation in the CDC42 gene responsible for Takenouchi-Kosaki syndrome. Biochem Biophys Res Commun 529, 1033-1037.

3. Daimon E., Shibukawa Y., Thanasegaran T., Yamazaki N. and Okamoto N. (2021) Macrothrombocytopenia of Takenouchi-Kosaki syndrome is ameliorated by CDC42 specific- and lipidation inhibitors in MEG-01 cells. Scientific Reports 11, 1, 17990.

図TKS変異方CDC42発現MEG-01細胞のPLP分化における阻害剤の効果

先天性グリコシル化異常症の診断支援を含む研究参考文献

糖タンパク質糖鎖の生合成障害でおこる100以上の疾患群の総称である先天性グリコシル化異常症(Congenital Disorders of Glycosylation:CDG)は、その多くが成長発達の遅れをおこしますが、通常の検査では診断が不可能であるために、多くの症例が未診断となっています。CDG の原因はかつて当部門において質量分析法を用いて解明されましたが、その後CDG 診断法を確立し、全国の医療機関に対して診断支援を行うことで研究成果を社会に還元しています。

また、質量分析法をはじめとする解析手法によって未解明な糖鎖機能を明らかにする研究も行っています。 CDGの一部は治療方法が存在するため、的確な診断が重要です。


先天性グリコシル化異常症は2021年に小児慢性特定疾患に指定されました。我々の経験をもとに先天性グリコシル化異常症の診断基準も作成しています。

詳細は下記をご覧ください。
CDG分子診断

先天性グリコシル化異常症の解析例

正常ではトランスフェリンの糖鎖が2本ある

正常ではトランスフェリンの糖鎖が2本ある

患者では糖鎖の欠損がみられる

患者では糖鎖の欠損がみられる