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免疫部門

1.早産を起こすウレアプラズマ細菌について

早産を起こす原因となっている細菌は多くの種類があります。中でも、マイコプラズマの仲間であるウレアプラズマという細菌による早産が多いことに注目してきました。マイコプラズマ科の細菌は独立して生存可能な最も小さな生物で、進化の中で小型化するために多くの遺伝子を失った生物と考えられています(退行進化)。ウレアプラズマの遺伝情報全体(ゲノム)は、大腸菌のゲノムの7分の1程度しかありません。つまり、多数の遺伝子を失って生きている分、宿主(ヒト)に栄養を頼って生きている生物です。 ウレアプラズマのウレア(urea)というのは、尿素という意味です。ヒトは蛋白質を分解する際に生じた毒性のあるアンモニアを尿素に変換して無毒化し、尿素として尿中に排泄します。

一方で、ウレアプラズマは生存に必要なエネルギーの95%を尿素の分解によって得ています。つまり、胎児の尿が多く含まれる羊水はウレアプラズマにとっては、増殖しやすい環境なのです。ウレアプラズマは、リプロダクティブエイジの女性の多くから見つかります。ウレアプラズマを持っている妊婦が必ずしも感染性の流早産を起こすわけではありません。ウレアプラズマは、胎児のいる子宮内に到達し増殖すると流産や早産を引き起こします。逆に言えば妊婦のウレアプラズマが子宮内に入り込むことを防ぐことが可能となれば早産は減る可能性があります。

1.1ウレアプラズマと宿主(ヒト)の関係

研究室ではウレアプラズマがどのようにして、我々の細胞に侵入し、ヒトの細胞の中での攻撃を避けて生存してきたのかといったところに注目して研究を進めてきました。これまでの研究で、ウレアプラズマがヒトの培養細胞の中にクラスリンという分子でできたかごの中に取り込まれながら人の細胞に侵入し、一部のウレアプラズマは細胞内の分解系であるオートファジーの経路を逃れて細胞の中で増殖し、次の細胞に感染することがわかりました。その際に、細胞の中の膜を壊していたのですが、この膜を破壊する蛋白質を見つけ、ウレアプラズマ空胞化因子(UpVF)と名付けました。また、このUpVFは感染したヒト細胞のプログラムされた細胞死(アポトーシス)を逃れる作用があることを見つけました。

この際には、ヒトの特定のmicroRNA(miRNA)の発現を調節していることがわかってきました(図1文献89)。病原体は宿主の免疫系や、分解系をすり抜けてあるいは、感染していないように装っては、細菌増殖の場を確保しています。我々の見つけたUpVFはヒト細胞にあたかも感染がおこっていないかのように思わせる作用を引き起こしていました。ヒト細胞に感染を早期に気付かせる方法が見つかれば治療にも役立つと考えています。

1.2ウレアプラズマのマウス精子への影響

以前からウレアプラズマと男性不妊の関係は議論されていましたが、科学的な証拠がなく結論が出ていませんでした。我々は、マウス精子を用いた実験で、ウレアプラズマが菌量依存的にマウス精子の運動性を障害することを見つけました。

また、ウレアプラズマに感染したマウス精子を用いて体外受精したところ、マウス受精卵の発生を障害することが示されました(文献82)。これらのことは、ウレアプラズマが男性不妊や、初期の受精卵の発生を障害することを示しています。臨床的な解析を行うことで、男性不妊や、初期流産にどの程度ウレアプラズマが関わっているのか、今後の解析を行う必要があると思っています。

1.3ウレアプラズマの抗菌薬感受性(耐性)の解析

ウレアプラズマなどのマイコプラズマ科細菌は多くの細菌が持つ細胞壁と呼ばれる構造がありません。従って、細胞壁を障害する抗菌薬はウレアプラズマには効果がありません。妊婦に対しては、細菌の蛋白質合成を阻害するマクロライド系の抗菌薬の効果が期待されており国内の複数施設で臨床研究が開始されます。  一方、我が国では妊婦には用いることのないキノロン系の抗菌薬の耐性に関わる遺伝子(quinolone resistance-determining region : QRDR)の解析を行ったところ、国内の妊婦あるいは、流産後の女性から分離されたウレアプラズマの4分の1程度に遺伝子変異を見出した。このことは、妊娠とは関係なく国内に多くのキノロン耐性ウレアプラズマが拡散していることを示すものでした。周産期医療関係者のみならず、他科の医師も薬剤耐性のことを知り、抗菌薬の適正使用をするように呼びかけています。

また、これまで報告のなかったQRDR変異を同定し、構造モデリングや、構造予測プログラムから薬剤耐性を予測するという新たな解析方法を試みました(文献57、図2左下)。我々の解析結果の発表後、実際に海外の複数個所から集められた耐性菌から我々の予測した変異が発見され、我々の解析が正しいことが証明されました。理論的に行った構造予測に引き続いて、実際の耐性株が見つかるという世界でも類を見ない事例となりました。これらのことを繰り返し学習することで、将来的には菌の遺伝子配列から効果のある薬剤が選択できるような日が来るかもしれません。

1.4日本人由来ウレアプラズマのゲノム解析

次世代シーケンサーを用いて、日本人由来のウレアプラズマSV3F4のゲノム727 kb、OMC-P162株のゲノム732 kbを決定しました。前述のUpVFはSV3F4株の機能未知の遺伝子の中からスクリーニングで膜を障害する可能性のある蛋白質をコードする遺伝子として見つけたものです。また、OMC-P162株には、新たな制限修飾系(制限酵素、メチル化酵素)が発見されました(文献70)。日本人由来の細菌のゲノム情報を解析したことで、治療の標的となる候補分子を見つけることが期待されます。

2.感染症診断用の核酸増幅酵素の開発

米国疾病予防管理センター(CDC)は1996年増殖の遅い結核菌の診断にPCRを取り入れました。その後、病原体検出の用の核酸増幅試験は徐々に浸透し、COVID-19のパンデミックは全自動遺伝子検査装置の導入を急速に推し進めました。世界の感染症診断が核酸増幅法にシフトする中、超高感度核酸検出技術の開発を行ってきました。

2.1新型コロナウイルスについて

SARS-CoV-2のゲノムは30,000塩基程の1本鎖RNAで構成されています。通常、SARS-CoV-2の検出にはRNAからDNAを合成し、その後DNAをPCR増幅する2段階で行います。RNAをDNAに変換するには、レトロウイルス由来の逆転写酵素(RT)を使うのですが、使用したRTは、4か所に変異を導入した安定な酵素(MM4:京大)です。MM4との組み合わせを検討した結果、鹿児島県トカラ列島で分離された高度好熱菌由来のDNAポリメラーゼ(M1polTh:関学)が最も優れていました(図3文献83)。

開発したRT-qPCRキットは病院機構内での研究用試薬として主に中~重症者の変異株検出に活用してきました。また、大阪府の補助を受け新型コロナウイルスのゲノム解析を行い、その結果は府を通じて国に報告されて疫学調査に活用されています。