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キービジュアル

病因病態部門

胚発生の仕組みと先天性疾患の発症機構に関する研究

1)胚の着床からその後の発生に必要な子宮側環境要因の解明

妊娠の最も初期、受精卵が母体の子宮に着床する時期では子宮内膜が適切に成熟していないと、着床障害や早期流産に繋がると考えられている。しかし、着床に必要な子宮内膜の環境や、初期胚が着床した際に起こる母体と胚との相互作用など、解明されていないメカニズムが多く存在している。モデル動物であるマウスは、子宮への着床、仔マウスの発生・成長の様式が、ヒトとよく類似していることから、100年以上にもわたってヒト疾患を研究する非常に適した動物とされている。そこで当部門では、マウスを用いて着床及び着床後胚の発生における子宮内の環境要因を明らかにすることを目標に研究を行っている。

着床直後のマウス胚は遠位臟側内胚葉が形成されることで、最初の体軸(遠位—近位軸)が形成される。その後、原条(中胚葉)由来の組織によって神経上皮が誘導され、前後軸に沿った前脳・中脳・後脳・背髄が発生する。当部門では、子宮平滑筋の収縮によって生じる周期的な子宮内の圧力が着床直後のマウス胚にかかることで、最初の体軸である遠位臓側内胚葉が誘導されることを見いだした。一方で、過度な圧力から胚を保護する機構が存在しており、この子宮内にかかる圧力を適度なバランスでコントロールすることが、初期胚の正常発生に必要であることを見いだしている。今後、着床及び胚発生の期間で、胚を取り巻く環境、例えば子宮内圧や胚の周辺組織の役割について明らかにすることで、着床障害や早期流産の発症機構に迫りたい。

参考文献

i) Ueda Y, Kimura-Yoshida C, Mochida K, Tsume M, Kameo Y, Adachi T, Lefebvre O, Hiramatsu R, Matsuo I. 
Intrauterine Pressures Adjusted by Reichert's Membrane Are Crucial for Early Mouse Morphogenesis. 
Cell Rep. 2020 May 19;31(7):107637.

ii)Matsuo I, Hiramatsu R. 
Mechanical perspectives on the anterior-posterior axis polarization of mouse implanted embryos. 
Mech Dev. 2017 Apr;144(Pt A):62-70. 

iii) Hiramatsu R, Matsuoka T, Kimura-Yoshida C, Han SW, Mochida K, Adachi T, Takayama S, Matsuo I. 
External mechanical cues trigger the establishment of the anterior-posterior axis in early mouse embryos. 
Dev Cell. 2013 Oct 28;27(2):131-144.

iv) Kimura-Yoshida C, Nakano H, Okamura D, Nakao K, Yonemura S, Belo JA, Aizawa S, Matsui Y, Matsuo I. 
Canonical Wnt signaling and its antagonist regulate anterior-posterior axis polarization by guiding cell migration in mouse visceral endoderm. 
Dev Cell. 2005 Nov;9(5):639-50.

2)先天性疾患の発症機構の解明

新生児の5%程度が神経管の閉鎖不全や先天性心疾患などの何らかの先天性の病態を持って生まれてくる。実際、乳児の死亡原因の第一位が先天性疾患でありながら、病名もつけられていない疾患も多く存在している。ヒトの発生・成長過程において、遺伝的及び環境的要因の破綻によって、ある遺伝子(シグナル)経路に異常が生じ、先天性疾患が発症すると考えられている。しかし、母体内で成長するヒトにおいては、それらの発症機序を予測、解明することは現時点では困難である。モデル動物であるマウスでは、遺伝子操作が容易であり、ヒトの発症原因と想定される因子(遺伝子)を実験的に操作した場合の生体内における症状を検証することが可能である。

また、当部門では当センターの診療部門と連携し、ヒト先天性疾患に関連する遺伝子候補を絞り込み、ゲノム編集技術を用いてマウスのヒト疾患のモデル動物を作製している。現在、数種類のモデル動物の作製に成功しており、病態発症の有無を検証し、さらに発症機序について分子レベル及び細胞レベルでの解析を進めている。得られた研究成果を通じて、先天性疾患など周産期・小児期疾患に対する新しい予防技術・治療技術の開発に繋げたい。

参考文献

i) Kimura-Yoshida C, Mochida K, Nakaya MA, Mizutani T, Matsuo I. Cytoplasmic localization of GRHL3 upon epidermal differentiation triggers cell shape change for epithelial morphogenesis. Nat Commun. 2018 Oct 3;9(1):4059. 

ii) Kimura-Yoshida C, Mochida K, Ellwanger K, Niehrs C, Matsuo I. Fate Specification of Neural Plate Border by Canonical Wnt Signaling and Grhl3 is Crucial for Neural Tube Closure. EBioMedicine. 2015 Apr 18;2(6):513-27.

Iii) Matsuo I, Kimura-Yoshida C. Extracellular modulation of Fibroblast Growth Factor signaling through heparan sulfate proteoglycans in mammalian development. Curr Opin Genet Dev. 2013 Aug;23(4):399-407.

iv) Shimokawa K, Kimura-Yoshida C, Nagai N, Mukai K, Matsubara K, Watanabe H, Matsuda Y, Mochida K, Matsuo I. Cell surface heparan sulfate chains regulate local reception of FGF signaling in the mouse embryo. Dev Cell. 2011 Aug 16;21(2):257-72.