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水腎症

水腎症とは腎臓で作られた尿の通り道(尿路)が拡張した状態をいいます。
よく「腎臓が腫れている」と表現されますが、尿路が拡張すると腎臓で尿を作る部分(実質)も引き伸ばされて全体が大きくなります。伸展の程度が強いと痛みを生じたり、腎臓の機能が障害される恐れがあります。水腎症は決してめずらしい疾患ではありません。
以前は乳児検診などで赤ちゃんのお腹が大きいことで発見されたり、腹痛や嘔吐、血尿といった症状がきっかけでみつかることがほとんどでしたが、尿路の拡張は超音波検査で発見しやすいため、妊産婦検診に超音波検査が広まった1980年代以降は出生前に水腎症と診断されるケースが急増しました。お母さんの胎内にいる間に一時的に尿路が拡張してみえることは100児に一人の割合と意外に多く、そのうち明らかな水腎症は600~800児に一人と報告されています。
胎児水腎症の多くは、生まれるまで特に検査や治療を必要としません。しかしながら、拡張が高度であったり、胎児の腎機能に著しい障害が疑われる場合(羊水量の減少など)は、早期に治療を行うことができる専門施設への相談が望まれます。

尿路が拡張する原因は主に2通りに分類されます。一つは通り道の一部が狭いために尿の流れが滞る『閉塞』、もう一つは一旦膀胱にたまった尿が腎臓に向かって逆戻りすることにより尿の流れが淀む『逆流』です。逆流については膀胱尿管逆流のページを参照していただき、ここではより強い拡張の原因となる閉塞についてお話します。

尿路の閉塞を来す疾患はその部位と程度がさまざまで、腎盂尿管移行部狭窄、中部尿管狭窄、尿管膀胱移行部狭窄の他に尿管瘤や異所開口尿管、尿道弁などによるものがありますが、出生前診断された水腎症の原因の35-60%は腎臓に一番近い腎盂尿管移行部の狭窄が原因であるといわれています。腎盂尿管移行部狭窄による水腎症は生後自然治癒するものが多いため、すべての患児に治療が必要なわけではありません。しかしながら、拡張が強いために新生児期に呼吸や哺乳の妨げになったり、痛みや嘔吐などの症状がある場合は症状の緩和のために治療(手術)が必要になります。また、経過中に拡張が軽減せず、逆に徐々に強くなるときや、水腎症のために腎臓の働きが低下したと判断されるときは、手術の適応があると考えられています。
当センターは周産期部門が併設されており、出生前や出生直後に発見された水腎症をはじめ、先天性腎尿路異常を指摘されてお悩みのご家族の方の受診も多く、次に述べます専門的な検査を加えながら、適切な治療方針をアドバイスしています。

1. 水腎症の診断、経過観察に必要な画像検査

  1. 超音波検査
    尿路の拡張の程度を判断します。最も簡便で侵襲が少なく、繰り返し行うことができます。
  2. RI(ラジオアイソトープ)検査:利尿レノグラム
    左右各々の腎臓の働きと尿の流れ具合をみます。中等度以上の水腎症の評価には必要不可欠な検査です。腎臓に集まる特殊な性質をもったRIという放射性物質を注射し、RIが腎臓で濾され、尿路に流れ出ていく様子をγカメラで追跡します。放射線の被曝量は軽度で乳児でも安全に行うことができます。ただし、正確に診断するためにはあらかじめ十分な水分補給を加え、検査の途中で尿の産生を促すために利尿剤の投与を適切なタイミングで行うなど、専門的な注意が必要で、設備と配慮の整った施設を選ばねばなりません。
  3. 排尿時膀胱造影
    膀胱尿管逆流症との鑑別に必須です。尿の代わりに造影剤を膀胱に注入し、排尿するところをX線撮影します。
    注意:腸管ガスが多く、尿の濃縮力が未熟な乳児では鮮明な画像が得にくく、静脈性尿路造影は無効なことが少なくありません。被爆の機会を減らすためにも、特殊な場合を除いて当科では行っていません。

2. 水腎症の外科的治療(手術)

  1. 当科が推奨する手術:腎盂形成術
    狭窄の原因となる部位を切除し、腎盂尿管移行部の内腔を広くつなぎ直します。脇腹に3~5cm程度の切開をおき、手術を行います。術後しばらくは吻合部の浮腫のために尿の通過が悪く、通りがよくなるまで腎臓から尿を直接体外へ出すための管(腎瘻)を留置します。通常数日~2週間で管が不要となり、退院できますが、吻合部の通過回復に時間がかかる場合もあります。開腹で行う場合と腹腔鏡を用いる2通りの方法があります。腹腔鏡の機械を用いて腎盂形成術を行う方法は、乳幼児では効果及び安全性は確立されていません。
  2. その他の手術方法
    内視鏡を使って尿路の内側から狭窄部を切開する内視鏡的腎盂切開術という方法があります。傷は内視鏡を挿入する穴のみです。しかしながら、狭窄部が長かったり、狭窄の原因が腎臓の異常血管による圧迫である場合などは無効なばかりか危険をともない、また身体の小さな乳児では適当なサイズの機械がなく、出生前診断された症例の多くには適応がありません。

3. 手術の危険性、合併症について、及びその対応

当科では年間10~15人のお子さまに対して腎盂形成術を行っており、手術の成功率は98%以上です。6か月以上経過しても吻合部の通過障害が改善しない場合は、再度手術を行ってつなぎなおすことがあります。また、術後腎盂腎炎(尿路感染症)をおこすような場合は抗生物質の投与や再手術が必要になることがあります。その他、出血、創部感染などの一般的な危険性もありますが、重篤なものは極めてまれで、輸血を要することはほとんどありません。