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心疾患児のRSウイルス感染症とその対策

RSウイルスは、生後2歳までに80%以上のお子さんが1度はかかるといわれる子どもの代表的な呼吸器感染症の病原体です。
健常児でも10%程度は入院加療を必要としますが、多くは鼻かぜ程度で済んでしまいます。しかし、明らかに血行動態の異常を示すなどの心臓病を持っている乳幼児が感染するとしばしば重症化し、人工呼吸器の助けを借りなければならなくなることがあります。重症化することで、喘息を発症するリスクが上がるという報告もあります。

このような乳幼児がRSウイルスの感染を受けても重症化しにくいお薬があります。それがRSウイルスに対するモノクローナル抗体―「ベイフォータス」「シナジス」です。

ベイフォータス(一般名 ニルセビマブ)は、以前から発売されていたシナジスを改良し効果が長続きするように作られています。この薬はウイルスの流行期間中に1回のみ注射することで、RSウイルス感染による重症化を抑制します。新しいお薬ですが安全性と有効性はシナジスと同程度であり、また世界で初めて健康な新生児や乳幼児に対するRSウイルスの重症化予防目的に承認を受けた医薬品です。アメリカやヨーロッパなど海外では、定期接種として広く活用されています。また、単回投与で効果が約5ヵ月間持続するため、通院の負担を軽減する利点もあります。ただし、先天性心疾患のお子さんが人工心肺を使用した手術を行う場合は、術後の安定した時点で追加の投与をすることが望ましいです。

シナジス(一般名 パリビズマブ)はウイルスの流行期間中(近年は34月頃から10月〜11月頃まで)に毎月1回注射します。日本では20年以上にわたり広く使用されているお薬です。このお薬を使うことで重症例が大幅に減ったことが知られています。また、このお薬による大きな副作用は、ほとんど報告されていません。

当院では、ベイフォータスに健康保険適応がある疾患の場合はベイフォータスを優先的に使用します。ベイフォータスに保険適応がなく、シナジスのみに保険適応がある疾患にはシナジスを使用します。

接種費用については、ベイフォータスはシーズン中に1回だけですが約450,000円〜1800,000円(体重により異なります)、シナジスはシーズン中に月1回接種が必要で1回あたり約80,000円〜320,000円とどちらも大変高価なお薬です。ただし、健康保険の適応を受けていますのでご家族の負担金はかかった費用のおおよそ23割となります。さらに、乳幼児医療などの公的負担制度を併用しますと負担金は大幅に減ります(2024年時点では大阪在住の場合、公的負担制度を併用すると窓口の負担は500円となります)。

このお薬の投与は強制的に受けなければならないものではありません。保険適応のある児にはお勧めしますが、投与を受けるか受けないかはご家族が判断してください。

健康保険の適応になる心疾患児

ベイフォータスおよびシナジスの投与開始時の月齢が24ヵ月齢以下の、血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児、乳児及び幼児(添付文書による)。
具体的には次のような新生児、乳児及び幼児が対象になると考えます。

  1. 心臓のお薬を飲んでいる児。体重増加やミルクの飲みが悪い児。多呼吸や肝臓の腫れを認める児。
  2. 肺高血圧がある児。
  3. 6か月以内に外科治療や心臓カテーテル検査が予定されている児。
  4. 生まれつきの呼吸器系の機能的・器質的異常を合併している児。
  5. 染色体や遺伝子異常を合併している児。

健康保険の適応にならない心疾患児

  1. 小さな体肺短絡性疾患(軽い心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存など)をもつ児。
  2. 軽度の弁狭窄や弁逆流を認める児。
  3. 手術やカテーテルによる治療で完全修復された児。

ベイフォータスについて(詳細は小冊子をご覧ください)

  1. RSウイルスと闘う抗体を体内に投与する抗体製剤であり、抗体の一部に薬の作用を長く保つ構造を付与したことで、1回の投与で少なくとも150日間の効果が確認されています。
  2. シナジスと同じく予防接種ではありません。したがって、本来の予防接種はベイフォータスの接種と無関係に実施してください。
  3. 注射をしてもRSウイルス感染にかからないわけではありません。あくまで重症化の抑制を目的としたお薬です。
  4. 流行シーズンに1回、太ももの外側の筋肉に注射します。2回目の流行シーズンでの投与時は2か所に分けて注射をします。
  5. このお薬はシナジスと同じく「生物由来製品」(マウスの成分を使用した製剤)です。生物組織を原料としていますので、原料の汚染による感染のリスクは「ゼロ」ではありませんが、20245月時点で原料の汚染による感染症が発生したという報告はありません。
  6. 副作用としては、注射後に発熱・発疹・注射部位の腫れや痛みがみられることがあります。重い副作用としては、アナフィラキシーという強いアレルギー反応が出現する可能性がありますが報告例はありません。(20245月時点)

※不明な点は必ず主治医にご相談ください。

シナジスについて(詳細は小冊子をご覧ください)

  1. RSウイルスと闘う抗体を体内に投与する抗体製剤であり、予防接種ではありません。したがって、本来の予防接種はシナジスの接種と無関係に実施してください。
  2. 患児の一般状態が良好であれば発熱があっても差し支えはありません。
  3. 注射をしてもRSウイルス感染にかからないわけではありません。あくまで重症化の抑制を目的としたお薬です。
  4. 流行シーズン中に月1回、太ももの外側の筋肉に注射します。体重によっては2か所に分けて注射します。
  5. このお薬は「 生物由来製品 」(マウスの成分、ウシの血液由来成分、羊毛由来成分を使用)です。
    生物組織を原料としていますので、原料の汚染による感染のリスクは「ゼロ」ではありません。しかしきこれまで世界で120万例以上に実施されていますが原料の汚染による感染症が発生したという報告はありません。(20067月現在)
  6. 重い副作用としては、アナフィラキシーという強いアレルギー反応が世界で3例報告されていますが死亡例はありません。(20067月現在)

※不明な点は必ず主治医にご相談ください。

近畿小児循環器パリビズマブ投与検討委員会

日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会

1. 投与対象患者さん

  1. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、以下の症状等が認められる場合。
    i. 明らかに循環動態の異常を示す。
    ii.
    未手術のもの、もしくは部分的修復術や姑息術を受け、症状が残存している。
    iii.
    術前または術後において肺高血圧症を有している。
    iv.
    手術(心臓または心外手術)、心臓カテーテル検査が予定されている。
    v.
    循環動態の異常は軽度だが、免疫不全が想定される染色体異常・先天異常症候群、ないし呼吸器系の機能的・器質的異常を合併している。
  2. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の乳幼児で、心筋症、特発性肺動脈性肺高血圧、不整脈等(心臓移植待機中または移植直後を含む)を有し、明らかに循環動態の異常を示す場合。乳幼児で心筋症、不整脈等を有し、明らかに循環動態の異常を示す場合。

2. 除外患者さん

RSウイルス感染流行開始時において、生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児であっても、以下の状態の場合は適応に含まれない。

i. 循環動態の異常を認めない心疾患。
a. 小さな体肺短絡性疾患(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存等):特に心腔の拡大を認めない場合。
b. 軽度の弁狭窄、弁逆流

ii. 手術及びカテーテル治療により完全修復され、リスクとなる染色体/遺伝子異常および呼吸器系ないし免疫系の器質的・機能的異常を伴わない場合。

日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン(2024年5月22日)

先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン

日本小児循環器学会 ガイドライン作成検討委員会

1.  投与対象患者さん

  1. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、以下の症状等が認められる場合。
    i.
    明らかに循環動態の異常を示す。
    ii.
    未手術のもの、もしくは部分的修復術や姑息術を受け、症状が残存している。
    iii.
    術前または術後において肺高血圧症を有している。
    iv.
    手術(心臓または心外手術)、心臓カテーテル検査が予定されている。
    v.
    循環動態の異常は軽度だが、呼吸器疾患を合併している。
  2. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、有意な症状を認めない、もしくは完全修復術を施行された乳幼児において、以下の症状/症候群を有する場合。
    i.
    染色体異常、遺伝子異常を有する。
     a. 21トリソミー(Down症候群)
     b. 他のトリソミー
     c. 22q11.2欠失症候群 等
    ii.
    その他の先天奇形を伴い、呼吸器系の機能的・器質的異常を有する。
  3. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の乳幼児で心筋症、不整脈等を有し、明らかに循環動態の異常を示す場合。

2.  除外患者さん

RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児であっても、以下の状態の場合は適応に含まれない。

i. 循環動態の異常を認めない心疾患。
 a. 小さな体肺短絡性疾患
   
(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存 等)
 b. 軽度の弁狭窄、弁逆流
ii. 手術及びカテーテル治療により完全修復された場合。

日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン(2019年4月)