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心疾患児のRSウイルス感染症とその対策

RSウイルスは、生後2歳までに80%以上のお子さんが1度はかかるといわれる子どもの代表的な呼吸器感染症の病原体です。
健常児でも10%程度は入院加療を必要としますが、多くは鼻かぜ程度で済んでしまいます。しかし、明らかに血行動態の異常を示すなどの心臓病を持っている乳児が感染するとしばしば重症化し、人工呼吸器の助けを借りなければならなくなることがあります。

このような乳児がRSウイルスの感染を受けても重症化しにくいお薬があります。それがRSウイルスに対するモノクローナル抗体―「シナジス」です。

このお薬は注射が必要で、9~10月ころからウイルスの流行時期が終わる3~5月ころまでの間、毎月1回注射します。このお薬を使うことで重症児が大幅に減ったことが知られています。また、このお薬による大きな副作用は、ほとんど報告されていません。

大変高価なお薬(1回につき約80,000円~320,000円かかります。体重によって金額が異なります)ですが健康保険の適応を受けていますのでご家族の負担金はかかった費用のおおよそ2~3割となります。さらに、乳幼児医療などの公的負担制度を併用しますと負担金は大幅に減るものと思われます。

このお薬の投与を保険適応のある児にはお勧めしますが、投与を受けるか受けないかはご家族が判断してください。強制的な予防接種ではありません。

健康保険の適応になる心疾患児

シナジス開始時の月齢が24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児、乳児及び幼児(添付文書による)。
具体的には次のような新生児、乳児及び幼児が対象になると考えます。

  1. 心臓のお薬を飲んでいる児。体重増加やミルクの飲みが悪い児。多呼吸や肝臓の腫れを認める児。
  2. 肺高血圧がある児。
  3. 6か月以内に外科治療や心カテーテル検査が予定されている児。
  4. 生まれつきの呼吸器系の機能的、器質的異常を合併している児。
  5. 染色体や遺伝子異常を合併している児。

健康保険の適応にならない心疾患児

  1. 小さな体肺短絡性疾患(軽い心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存など)をもつ児。
  2. 軽度の弁狭窄や弁逆流を認める児。
  3. 手術やカテーテルによる治療で完全修復された児。

シナジスについて(詳細は小冊子をご覧ください)

  1. 予防接種ではありません。したがって、本来の予防接種はシナジスの接種と無関係に実施してください。
  2. また、患児の一般状態が良好であれば発熱があっても差し支えはありません。
  3. 注射をしてもRSウイルス感染を完全に予防することはできません。あくまで重症化することの減少を目的としたお薬です。
  4. 筋肉内に注射します。体重によっては2か所に分けて注射します。
  5. このお薬は「 生物由来製品 」(マウスの成分、ウシの血液由来成分、羊毛由来成分を使用)です。
    生物組織を原料としていますので、原料の汚染による感染のリスクは「ゼロ」ではありませんが、これまで世界で120万例以上に実施されていますが原料の汚染による感染症が発生したという報告はありません。(2006年7月現在)
  6. 重い副作用としては、アナフィラキシーという強いアレルギー反応が世界で3例報告されていますが死亡例はありません。(2006年7月現在)

※不明な点は必ず主治医にご相談ください。

近畿小児循環器パリビズマブ投与検討委員会

先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン

日本小児循環器学会 ガイドライン作成検討委員会

先天性心疾患を有するRSウイルス感染ハイリスク児を以下に定義し、RSウイルス感染の重症化抑制を目的にパリビズマブの投与を推奨する。

1.投与対象患者さん

  1. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、
    以下の症状等が認められる場合。
    i. 明らかに循環動態の異常を示す。
    ii. 未手術のもの、もしくは部分的修復術や姑息術を受け、症状が残存している。
    iii. 術前または術後において肺高血圧症を有している。
    iv. 手術(心臓または心外手術)、心臓カテーテル検査が予定されている。
    v. 循環動態の異常は軽度だが、呼吸器疾患を合併している。
  2. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、有意な症状を認めない、もしくは完全修復術を施行された乳幼児において、以下の症状/症候群を有する場合。
    i. 染色体異常、遺伝子異常を有する。
     a. 21トリソミー(Down症候群)
     b. 他のトリソミー
     c. 22q11.2欠失症候群 等
    ii. その他の先天奇形を伴い、呼吸器系の機能的、器質的異常を有する。
  3. RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の乳幼児で心筋症、不整脈等を有し、明らかに循環動態の異常を示す場合。

2.除外患者さん

RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の先天性心疾患児であっても、以下の状態の場合は適応に含まれない。

i. 循環動態の異常を認めない心疾患。
 a. 小さな体肺短絡性疾患(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存 等)
 b. 軽度の弁狭窄、弁逆流
ii. 手術及びカテーテル治療により完全修復された場合。