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慢性活動性EBウイルス感染症の治療

EBウイルスの初感染と潜伏感染

EBウイルス(エプスタイン・バールウイルス;Epstein-Barr virus)はヘルペスウイルス科に属し、1964年にバーキットリンパ腫という主にアフリカでみられる小児腫瘍から発見された、ヒトがんウイルスの第1号です。その後の研究からEBウイルスはほとんどのヒトに感染していることが明らかとなり、日本でも3歳頃までに6〜7割が、成人では8〜9割で感染しています。

ところでヒトの白血球の一種であるリンパ球には、B細胞、T細胞、NK細胞の3種類があります。EBウイルスは通常唾液を介して初感染しますが、乳幼児では無症状(不顕性感染)が多く、発熱や肝機能異常を一過性に呈する伝染性単核球症を起こすのはたいてい思春期以降です。その際EBウイルスはB細胞に初感染し、急性期を過ぎても体内から排除されることなく、生涯にわたってB細胞に潜伏感染します。

ヒトには免疫力が備わっているため、EBウイルスに感染したB細胞が再び直接病気を起こすことはありません。ただまれに悪性リンパ腫などを惹き起こすことはあります。その発症には複数の要因が関わっており、加齢や免疫力低下もそのひとつです。

慢性活動性EBウイルス感染症とは

極めてまれなことですが,EBウイルスがT細胞やNK細胞に感染することもあります。その結果として伝染性単核球症に類似の症状を起こしてくるのが、慢性活動性EBウイルス感染症です。両者は症状が似ていても全く異なる病気です。なお慢性活動性EBウイルス感染症は欧米よりも東アジアに多くみられます。またかつては小児の病気とされていましたが,今では成人を含む全年齢層で発症し得ることが分かっています。

発熱、倦怠感、リンパ節腫脹、肝腫大や血中肝酵素の上昇、脾腫、皮疹などを認めます。無治療ないし対症療法で軽快することもありますが、根本的な治療をしない限り再燃を繰り返し、急変、または悪性リンパ腫や白血病化により、数年以内に約半数の人が、そして十数年の経過でほぼすべての人が死の転帰を辿ります。急変の代表例は、肝不全や心不全や腎不全などの多臓器不全、あるいは高熱と汎血球減少を伴う血球貪食症候群です。

蚊に刺されると潰瘍や全身反応(発熱やリンパ節腫大など)を伴い、瘢痕を残して治癒する蚊アレルギー、同様の反応が日光で誘発される重症型種痘様水疱症も、皮膚に浸潤したEBウイルス感染T/NK細胞の活性化により発症することが分かっており、慢性活動性EBウイルス感染症の類縁疾患と考えられています。そのほか消化管の壁に潰瘍や出血、心臓や大きな動脈の壁に浸潤を認めることもあります。

症状や一般検査から本疾患が疑われれば、抗EBウイルス抗体価の異常高値や血中EBウイルス量の異常高値から本疾患を暫定診断した上で、EBウイルスがT細胞またはNK細胞に感染していることを浸潤組織の生検または血液で証明することで、確定診断に至ります。

慢性活動性EBウイルス感染症の診断と治療

本疾患にさまざまな治療が試みられてきましたが、充分な治療効果は得られませんでした。本疾患が単なる感染症と誤認されていたのも大きな要因です。本疾患の病態は、(1) EBウイルスの感染したT/NK細胞が血液中や様々な組織で異常に増殖し、(2) またその細胞が活性化して体内の免疫系を異常に反応させることにあります。その振る舞いはもはや感染症ではありませんし、抗ウイルス薬も効きません。本疾患の存在が初めて明らかにされてから約20年が経った2008年、本疾患は悪性疾患であるという世界的な共通認識に至りました(WHO分類2008年第4版,現在はその2016年改訂版)。

当科では世界に先駆け、唯一の根本的治療は感染細胞の根絶であるとの認識のもと、1990年代から化学療法(抗がん剤治療)や造血幹細胞移植に取り組んできました(図)。まず免疫化学療法で病気の鎮静化を図り急変のリスクを回避します。次に感染細胞の減少を期待して多剤併用化学療法を行います。最後の造血幹細胞移植は、大量の抗がん剤(前処置)で感染細胞を含む自己の血液細胞を破壊するとともに、健常なドナーからいただいた造血幹細胞を投与し、健全な造血を回復させる治療法です。

当科では病気が進行する前に治療を開始し、治療をやり遂げる方針をとっています。無再発生存率は押し並べて約75%です。抗がん剤の効きが悪く、病気のコントロールがつかない場合は、救命率はいまだ20%未満です。一方、病状が安定した状態で移植できた場合、骨髄移植でも、近年に広まった臍帯血移植でも成功率に優劣はなく、約90%の人が元気にされています。

図.当センターにおける治療方針

当センターにおける治療方針

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